東大のこと、教えます/92865

東大のこと、教えます
という本を読んだ。

 東京大学の総長、小宮山さんの本。東大ほどの大きな構造の中に居ると、中に居ても知らないことは無限に近くあるわけで、総長視点の「東大」というものが見えて面白かった。

 本書で書かれていた「一般的に信じられているが『嘘』であること」について箇条書き。
・欧米と比べ、日本の大学は卒業が楽だと言われているが...

 入学者に対する卒業者の割合は、アメリカではハーバードで98%、ブリンストンで97%、イェールで96%、スタンフォードとMITは94%。イギリスではケンブリッジ大で99%、オックスフォードで98%。それに対して、東京大学ではここ20年間の平均で95%と、欧米のトップ大学より卒業が難しい。また、留年して東大を卒業していくのは全体の25%。
 また、イギリス全体の平均では86%。アメリカの州立大学であるカリフォルニア大学バークレー校で87%。テキサス大学オースティン校で75%。
 何のことは無い。入学するのが難しい学校は卒業率が高く、そうでない学校は卒業率が低い、というだけの話のようだ。

・学力が低下していると言われるが...

 「若者はダメになった」といい続けられながらも、人類は進歩してきた。そして、学力低下と一言に言っても、学問も細分化され、膨大な量の知識となっているのだから、一概にはいえない。

・東大生の親の年収は慶応を超えるといわれるが...
東大生の親にはサラリーマンが多いが、慶応の親には自営業の人が多いため、正しいデータが集まっていないのではないか。以前、自営業の人の申告収入を一律3倍にして奨学金を出すことにしたら、自営業の人とサラリーマンの人とで、奨学金を受け取る人の割合が同じになった。


・若い世代の理科離れをどうしよう、という声があるが...
 まずは大人が理科に興味を持ちなさい。先進国25ヶ国中、日本人の大人の理科の学力は22位。これでは子供が理科を好きになる訳が無い。同様に、子供の活字離れを止めたければ、まずは大人が本を読め。

・優秀な学者でも若くては教授になれないと言うが...
そんな事は無い。現在最も若い教授は38歳。優れた業績があればきちんと登用する時代だ。

・アメリカでは学費を自分で稼ぐ学生が多いと言うが...
真っ赤な嘘。アメリカの大学生も、圧倒的多数は親が全額、学費を負担している。学生の本分は勉強なのだから、お金を稼ぐ暇があったら勉強しろ。私の任期中に貧しいが大学で学びたい優秀な学生は学費免除にしたいと考えている。



東大について(総長視点)
ハーバード大の学生とも、当然互角に議論ができる。
・多様性の確保には賛成だが、AO入試などで、たかだか18歳の入学者の多様性などを必要とはしていない。もっと根本的な大学の構造を変えるような多様化の確保を考えている。例えば社会人がもう一度大学に戻って学ぶ仕組みであるとか。
・20兆円積んでも、東大は買えない。
・「本質を捉える知」「他者を感じる力」「先頭に立つ勇気」を東大生は持ってほしい。


今の日本にかけているものは

・実験しながら導入するという精神
・科学技術の成果が活用されるような仕組み(無駄な規制の撤廃)
・日本にグーグルが生まれないのは途上国精神を捨て切れていないから。
・アメリカの実態を知らずに憧れている人が多すぎる。積極的差別是正措置をとらないとやっていけないような差別大国である。
・大学院の授業料が有料なのは先進国では日本だけ。「世界の先進国で、将来国を背負って立つ可能性のある若者に、大学院の授業料を払わせているのは日本の大学だけ」

今の日本が世界最先端のものは
・東大教授の1/3は世界トップレベルの研究をしている。
・先進国の中でもっともエネルギー効率が高いのが日本。世界一の「環境先進国」である。
・世界一の長寿大国である。
・日本は、日本自身の問題を解決する事で、世界の問題を解決できる立場にある。


その他面白かった記事
・何歳までなら親の脛を齧っていいですか?
22歳。あるいは、院に進むなら26歳まで、存分に齧ればよろしい。

ノーベル賞を本気で取りたいと思ったことはありますか?
2回ほどあるが、若気の至りだった。