みらい02-21世紀の歴史/204900

ジャック・アタリ著『21世紀の歴史』を読んだ。

ジャック・アタリはフランスを代表する知性の一人であり、本書がフランスでベストセラーとなり、サルコジ大統領は、「アタリ政策委員会」を設置し、21世紀フランスを変革するための政策提言をアタリに依頼した。

戦争に巻き込まれる人々が、その戦争は正義であり必要不可欠であると判断しない限り、そして市民の忠誠心ならびに市民の持つ価値観に対する信念が維持されない限り、いかなる戦争も勝利できない。よって未来の主要な兵器とは、おそらくプロパガンダであり、コミュニケーションであり、脅しであろう(p263-264)

  • 未来の社会・未来の経済はどうなるか?

著者アタリは、21世紀の歴史を、【中心都市】という概念を用い、これまでの歴史を俯瞰する事によって【歴史の法則】を見出し、それを未来に適用している。

【中心都市】とは、市場民主主義の中心地であり、エリートビジネスマン、学者、芸術家などのクリエーター階級を世界中から集める事のできる魅力的な都市である。現在の中心都市はロサンジェルス。人類史上9番目の中心都市である。
ざっと俯瞰すると、

      • 地中海

ブルージェ(交易)、ヴェネチア(船団)、アントワープ(印刷/保険)、ジェノヴァ(複式簿記)。

      • 大西洋

アムステルダム(衣料/農産物)、ロンドン(蒸気機関)

      • アメリカ

ボストン(自動車/石油)、ニューヨーク(電気/電化製品)、ロサンジェルス(ネット/携帯製品)
である。


そして、それら歴史を貫くひとつのキーワードは、「自由」である。

いかなる時代であろうとも、人類は他のすべての価値観を差し置いて、個人の自由に最大限の価値を見出してきた。

以下、【アメリカ帝国の終焉】、その後の第一波【超帝国の出現】、第二波【超紛争の発生】、第三波【超民主主義の成立】について概略を見る。

そのプレイヤーは、遊牧民化する人々:【ノマド】であり、【資本主義市場】と【民主主義】の戦いであり、人々の抱える不安を守る【保険】と、不安から逃避させる【娯楽】である。

    • 【アメリカ帝国の終焉】(〜2025)

世界のほとんど全員が高速ネットワークに接続し、携帯電話やノートパソコンはさらに小型化する。そういった小型化された携帯やi-podなどの【オブジェ・ノマド】がサービス全般に行き渡り、機械・建物・ダムなどを常時遠隔監視できるようになる。

就労のために必要な知識が、2030年には72日ごとに倍増する。加速する競争の中、時間だけが、残された唯一希少なものとなる。人類は寿命を延ばそうと試み、妊娠期間や言語学習時間の短縮を試み、CD・映画・本といった【蓄積された時間】の価値は下がり、演劇・ライブ・講演会など【生きた時間】の価値は上がる。

地球の7番目の大陸である「インターネット大陸」は、現在アメリカの植民地状態であるが、いずれ自治権を獲得し、独立した実態として勢力を伸ばし、アメリカに楯突くようになる。また、アメリカに存在する企業も、アメリカ政府のイメージが下がる事で企業の売り上げが下がり、アメリカを離れる。

こうして、アメリカは2025年ごろ、自国企業が稼ぎ出す利益の大半を自国領土内に留める事ができなくなり、内政と外交にも莫大な費用がかかり、アメリカの債権国は資金を引き揚げ、アメリカの金融信用構造は崩壊する。

    • 【超帝国の出現】

アメリカ崩壊後、大陸ごとに1〜2の勢力を中心とし世界は多極化する。アメリカ、ブラジル、メキシコ、中国、インド、エジプト、ロシア、EUといった9つの国家が多極化する世界の秩序の指導国となる。しかし、このような多極化の秩序が維持される保障はない。

資本主義市場と、民主主義(国家)の戦いは市場の勝利に終わる。すなわち、国家や公共機関の供給する教育、医療、福祉、統治権といった分野が民間サービスに取って代わられる。

国家機能は代替されそれをテクノロジーが後押しする。2040年ごろ、国家のさまざまな機能を代替する【監視】機能を持つ、経済成長の原動力となる財:【監視財】が登場する。【監視財】は、モニタリングし、効率を改善したいという市場の要求から登場する。

市場の原理が民主主義の原理に打ち勝ち、公共サービスまでもが民間企業との競争に曝されるようになると、セーフティネットは民間または公営の保険会社が担うようになる。保険会社は保険会社のリスクを最小限にするために、顧客の法人や個人に【規範の順守】を要求する。

保険会社に規範の順守を証明するために、第三者の立証を必要とする。それを可能にするのが、【監視財】である。テクノロジーにより、製品の履歴や人の動きがすべてわかり、公共の場所・私的空間への超小型カメラ・センサーの設置により、人々の行動・精神・健康の監視が可能になり【超監視社会】が到来する。

2050年ごろ、さらには貯蓄、財産、血圧、知識などを測定できるようになり、各人は耐えず自分自身のパラメーターを把握する【自己監視体制】。そして、パラメーターを把握すればそれを修正し改善する【自己修繕体制】ができあがる。

このような【超帝国】の支配者は企業のスターや戦略家、経営者、デザイナー、開発者など【超ノマド】たちである。彼らは未来の企業形態である(すでにその萌芽はある)【劇団型企業】(Project Basedで有能な人を)や【劇場型企業】(企業の知名度・ブランドがベース)で働く。

【超ノマド】であるためには、訓練は必須事項であり、好奇心は絶対的要求である。旅行者としての資質:器用さ、土地勘、忍耐強さ、優雅さ、粘り強さ、勇気、頭脳明晰、慎重さ、強運、バランス感覚が必要となる。【超ノマド】は多極化された世界の中心都市に見られ、人数は数千万人ほど。同時に複数の仕事を持ち、情け容赦ない競争を勝ち抜いた者である。

彼らの働く企業は、国家の力の低下から、国家が規制する手段を持たない悪行を繰り返す【海賊企業】と、国家が満たすことができなくなったある種の役割を代行しようとする【調和重視企業】に分たれる。

【超帝国】は世界規模の市場を作り上げるが、【下層ノマド】と呼ばれる貧困層の割合は拡大していく。彼らは貧困や乾燥から脱出するために、農村部から都市部へと移住する。仮に【超紛争】が勃発するとすれば、その主要な当事者となり、【超民主主義】が実現される場合にはその原動力となる。

    • 【超紛争の発生】

【超帝国】の出現により、国家が弱体化すると、海賊(マフィア・ギャング・テロ組織など)と私設軍隊が衝突する。海賊たちや、政治団体または宗教団体は軍事的手段を手に入れ、市場の秩序を破壊する。【下層ノマド】の集団たちが脅威と化す。国家は彼ら破壊者に対処しなくてはならないが、志願兵の確保は困難になる。

世界は核兵器による破壊、小型化・ネットワーク化された戦争に怯えることになる。【超紛争】の前に生じるであろう4タイプの紛争は1.希少資源(水・油)を巡る紛争、2.国境を巡る紛争、3.影響を巡る紛争、4.海賊と【定住民】の紛争である。


多極化した世界が破綻し、私設軍隊、海賊、傭兵、テロ組織が確立されると、民間の戦争と国家同士の戦争が同時に起こる。【超紛争】である。核兵器が使用され、歴史を綴る者が居なくなる。しかし、このような【超紛争】が起こる前に、民主主義は海賊を打ち負かし、平和、理性、公平、連帯、平穏、友愛に満ちた世界を構築するための新たな勢力が権力を握るであろう。

    • 【超民主主義の成立】

超民主主義のプレイヤーは【トランスヒューマン】(愛他主義者)と【調和重視企業】である。収益を目標とするのではなく「心地よい時間」「共同体のインテリジェンス」といった、各人のゆとりある暮らしのために必要となる財・共通資本が発展する。

【トランスヒューマン】たちは、自分たちの幸せは他者の幸せに依存している事を悟り、人類は平和を通じて互いに連帯するより生き延びる方法がないことを自覚する。

希少性の世界においては、他者はライバルであるが、トランスヒューマンにとっては、自分自身の存在の証であり、孤独で無い事を確認する手段である。本当の意味での無料サービスが確立し、敬意、感謝、共に楽しむことが金銭的報酬にとってかわる。

国家は少しずつ穏やかな隣国関係を見出し、行政執行官の働きぶりを【超監視体制】の技術を用いて監視する。こうして民主主義を管理する新たな形態が登場する。地球規模の制度・機構が国連を土台として誕生し、自然・他者・生活に関する各人の権利と義務をまとめる。

こうして資本主義市場と民主主義は地球規模でのバランスを見出す。


◆編集後記
2060年には、74歳となる。平均寿命が90へ伸びるなら、まだ【超民主主義】の中で活躍できるのだろうか。