『複雑な世界、単純な法則』(1-4章)/86766

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線
NEXUS: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks
Mark Buchanan著。 坂本芳久訳。
という本を読んだ。

まだ6/13章までしか読んでないけれど面白い!!
この高揚感。たまらん。
不思議な一致を見せる世界。ゾクゾクする興奮。
内容の面白さに追随する表現力と名訳。
いい本に出逢えた僥倖とでも評するべき何ものか。

やっぱり将来はこういう方面かな。脳という宇宙を拓く場所に行きたい。


さて、今まで書評のごときものを「箇条書き」のエッセンスのように書いていたんだけれど、
やっぱりHowto本以外では、「繋がり」が無いと面白くないし、身にもならないのでは、と思った。
だから、今度から繋がりを持った文章で再構成してみることにする。
長くなるし、時間も遥かにかかるが、けれど、いいことだと思う。

1.わたしとあなたの距離。

 「隔たり」というものに注目しよう。例えば、人と人との「隔たり」。友人と呼べる人を、一体何人介せば、私と、この文章を読んでいる「あなた」は繋がるのだろうか?あなたが私と直接の友人である場合、その隔たりは「1」だ。そして、私の直接の友達を知っている場合、その隔たりは「2」だ。そうして、あなたと私は、きっと、非常に少ない数字で繋がっている。

 ミルグラムという学者が行った実験がある。手紙をある人物Aに送る為に、Aの住所は知らせず、ランダムに選んだ人に「Aを知っていそうな友人に転送して、Aまで届けてくれ」と頼んだ。手紙の多くは6回前後で到達したという。スモール・ワールド。世界はなんと狭いのであろうか!

 もちろん、この実験は、ある人とある人が繋がるには6人でよいとする「証拠」には全くならない。戻って来なかった手紙もあるわけだし、もしかしたらその手紙は、数百回の転送を繰り返し、ついに捨てられたかもしれない。しかし、私たちは、世界に「奇妙な縁」がある事を知っている。

 奇妙な縁。それは例えば、たまたま出会った私とあなたが同郷であるとか、大学の先輩の後輩が、同級生であるとか、広いはずの世界の、奇妙な縁のことだ。私の場合印象的だったのは、関西Walkerで見つけた「おいしい店」に行ったら、同じマンションの同じ階の人だった(私は彼女を知らなかったが、彼女は私を知っていたらしく、話しかけられた)ことだろうか。

 いま、ランダムな点を考えよう。エルデシュという数学者が居た。彼は、ランダムな点と点を『全体として』結びつけるには、つまり、どの点からどの点にも移動可能なネットワークを構築するには―それは例えば、50の都市を効率よく結ぶには、大体何本の、都市から都市へと走る道路があればいいのだろうかという問題に対応する―どうすればよいか、と考えた。

 彼は、ランダムな点列を繋ぐには、少数の道を「ランダムに」配置すれば事足りるとした。この理論によると、1000万の点であれば16の、60億の点であれば、24の「道」があればいいという。60億で24!すなわち、60億の人を結ぶには、24人の知り合いがあればよいのだ。

 だがしかし、人間のネットワークは、決してランダムな点ではない。私と同じ高校の友人は当然、共通の友人を多く持っている。私やその高校の友人たちは、いわばクラスター(塊)化しているといえる。「友達の友達は、大抵友達」なのだ。

 人と人との繋がりを近似しようとするとき、「距離」というのはひとつの指標になる。子供のころ近所に居た友達と誰一人として、全く連絡が取れない、という人は少ないはずだ。ランダムに点を配置し、ある点から直近の数十人に線を引く。そうしてこれを「クラスタ」とする。―が、このモデルは失敗に終わる。このモデルでは、最大でも一度に「数十人」と決めた人数分しか移動できない。60億の点がある時、端から端ではざっと数千万回の移動が必要となる。ああ、ミルグラムの実験はなんだったのだろうか?数千万が6人?まさか。


2.自己組織化へ向かう世界。

 カメラを、自然界へと向けよう。ワッツという数学者は、ホタルへ注目した。明滅するホタルの光。パプア・ニューギニア。黄昏が夜に変わった後。はじめは2匹。次に3匹。10匹。そして、100匹。ホタルたちが完全に同期して―同じタイミングで―明滅をはじめる。鬱蒼と茂るマングローブの木々が、二秒間に三回ほど光に包まれ、そして、闇へ溶ける。なぜ、ホタルたちは、同時に光を放つことができるのだろう?ホタルだけではない。一斉に鳴き声を出すコオロギ。そして、人間の心臓の心筋細胞の同期信号。脳のニューロンの同期的な発火。なぜ、そのタイミングを、知ることができたのか?

 ワッツとその指導教官ストロガッツは、はじめ、あるホタルが、「その他のホタルの光を見る」と、それを見なかった場合より、少しだけ早く光を発するという「仮想ホタル」を、コンピュータ上で作った。そうすると、どんな初期条件を与えても、仮想ホタルの群れの明滅は、全てのホタルが同じタイミングで光を出すという結果が出た。

 けれど、仮想ホタルは、一匹の光を他の全てのホタルが感知できるというモデルだった。これは、現実にそぐわない。数百メートル離れた場所からの光を、ホタルが感知しうるだろうか?これまた「クラスター化」すなわち、直近の何匹かにのみ影響を与える―と考えざるを得ない。

 ワッツとストロガッツは再び、コンピュータ上からモデルを作った。モデルを立てる上で、「隔たり次数」と「クラスター化指数」というものを自動で計算できるようにした。隔たりは1章で扱った隔たり次数だが、「クラスター化指数」は、例えばあるn個の点を取ったとき、そのn個のうち、いくつが実際に繋がっているか、という「塊度」をあらわす指数で、任意のn点の繋がりが緊密であるほど、大きい値となる。

 彼らの最初に立てたモデルは、どの三点をとっても二本がつながっているような、すなわち、クラスター化指数2/3=0.67のモデルだった。各点の周りに10の点があるような「点」を、100ほど円形に並べた。非常に規則的な世界である。この場合の隔たり次数は非常に大きい。一方の「端」(円に端は無いが)から「端」へたどり着くまで、50の隔たりがある。ホタルにも、当然、人間にも、当てはまらない。

 そこで彼らは、ランダムな線を数本だけ、加えてみた。このランダム・リンクは、クラスター化指数をほとんど下げずに、隔たり次数を劇的に下げる効果を持った。例えばこの数本で、隔たり次数50は7へと下がった。彼らは条件を変え、様々に試行錯誤した。どれにも違いは無かった。クラスター化された広大な世界をスモール・ワールド化するには、つねにごく少数のランダムリンクで十分だったのだ。

 さあ、60億の人々に戻ろう。60億の1人1人がそれぞれ数十人を知っている場合、隔たり次数は、最大数千万だった。けれどワッツらのプログラムを用いて計算すると、一万本あたり1〜2本のランダムリンク―架け橋であり、ショートカットである―の、混入が、劇的な効果を齎す。数千万の隔たりは、平均してわずか7へと下がったのだ。一万本につき、3つであればこの次数は「5」まで下がる。そして、人々のクラスター化構造にはほとんど影響を及ぼさない。

 これで、奇妙な縁の謎にひとつの説明がついた。社会的世界のショートカットは普段、視野の外にあるが、人と人との隔たりを考えるときそれは、劇的に「効いて」くるのだ。