デマの広め手に、なるのをやめよう

  • 善意のデマが、不安を煽る

地震発生直後から、阪神淡路大震災の際、神戸に住んでいたこともあり、そして、自衛隊の炊いてくれた温泉や、近くの仮設水源から水汲み・水運びをしたものとして、多大な関心を持って、Twitter始め、UST、各社メディア、海外メディア(状況の整理は海外メディアの方がされています)、政府・東電の公式発表等、強い関心と悲痛の中、見ておりました。

Twitterは、情報の速効性という意味では非常に有用なメディアなのですが、このTwitterや、メーリングリストで「善意で広められる、悪質なデマ」が蔓延しています。

例えば、ある人物が震災直後、震災の悲惨さが分かる前に

地震が起きた時、社内サーバールームにいたのだが、ラックが倒壊した。腹部を潰され、血が流れている。痛い、誰か助けてくれ。ドアが変形し、腕しか動かない、呼吸ができない。助けを呼ぶことができない + 住所

というデマを流しました。「善意の誰か」は数百名にものぼり、実際に警察・病院に連絡した人多数。本人が居ない、そのツイートに書かれた住所には、何台もの救急車が急行したそうです。

  • デマ一覧

こちらのURLにも詳しいですが
http://www.yukawanet.com/archives/3598689.html

・関東に夜中大きい地震がくる
・富山県内で13日大地震が発生する
・只今、近畿のプレートが小さくなっている模様。次は近畿に大きな地震が起きる可能性が非常に大きいので明日、明後日は注意してください。
阪神大震災の際ははじめの地震から三時間後に一番強い地震がきた
阪神大震災の際には女性暴行が増えた
コスモ石油の爆発による有害物質流出
福島原発「メルトダウン」まで秒読み
・前期の東大で合格した親戚が宮城で被災。入学に必要な書類の提出期限は14日。にも関わらず対応ナシらしい

などなど、多種多様なデマが、短期間で流れました。
私も阪神淡路大震災を体験し、そして現在も福島に、仙台に友人が居り、こういったデマの一つ一つに、心を痛めています。

  • 感情的な反論は、音も無く無視する


こういった、デマの警戒情報を流している人たちは、“善意でやっている”事が多いため、さらに問題があります。デマを指摘すると「デマという証拠はあるのですか」と開き直られ、修正が成されない、といったことがよくあります。

私もTwitterで「デマ一覧」「不要な不安を煽らないで下さい」というツイートを書いたところ、ホリエモンにRTされて以降、たくさんの人から賛同のメッセージを頂きましたが、中には「本質は注意喚起。注意を煽るのが悪いのか」「デマという証拠はあるのか」といった、信じがたい反論もありました。

こういった非常事態にこそ、

    • 偽情報で、現場の人々の不安を煽り、冷静に対処すれば対処できるはずだった事の精度を下げるということ。
    • 人々に不安と疑心暗鬼を募らせ、人々が連携して災害に対処するのではなく、人々を分断すること。

要するに、パニックを喚起するような情報の広め手になるのは、避けなくてはならないのですが。*1

ここで明確にしておきたいのですが(現時点で)証拠・確証のない情報がデマ です。

だから、結果的にデマ情報(根拠なく、そうなる、と騒いだ物)が本当になることはあります。それどころか、デマが現実を創りだすこともあります。
例えば

豊川信用金庫事件

など。

そしてポイントなのは、こうした現実を創ったデマは、後から見れば「正しかった」のですが、同時にそのデマが広まらなければ、悲惨な現実は起き得なかった、という事です。

また、デマではない証明 といったものは、ありません。
「デマではない証明」を要求するというのは、

あなたに街中でいきなり声をかけて
「あなた、犯罪者ですよね?」と聞き
「犯罪者ではないという証拠がありますか?」と畳み掛け
「その証拠がないなら、あなたは犯罪者では無いとはいいきれない」
「犯罪者の可能性があるので、みんなに警戒してもらわないといけないですから、Twitterで情報を流します。もしあなたが犯罪者で、万が一被害に合う人が居るといけないので」

このくらい、異常なことなのです。
「デマではないという証拠がない警戒情報」を流すのではなく
「証拠・ソース・発言者責任つきの情報」だけを流し
「出処の分からない情報」は、自分の所で止め、流した誰かに訂正するようメッセージを送りましょう。

110313 16:13追記

僕は、第一原発から30〜40Kmあたり(もう少し遠いかも)に住んでいますが、デマの横行で、避難所や給水所などが情報で混乱しています。

例えば、
「放射能に汚染された人が来るから、遠くに逃げろ」と、東京電力が言ってるとか、
今夜停電するとか

僕自身、今現在、南相馬に住む友人、火力発電所近くに住む釣り仲間、知り合いの漁師さんたちと、全く連絡が取れない状況です。

悲しいことになってしまいましたが、情報パニックでさらなる被害を増やさないためにも、遼遠さんやふろむださんのような、冷静に状況が判断できる方々、または、被害が大きくない地域の方々が正しい情報を流していただけることを、切に願います。

ネット回線も東北は不安定なので、Twitterなどで、周りの方々に、正確な情報だけを流すように伝えていただけると幸いです。

こういった、現地で実際にデマで混乱・困惑している方の声を、併記しておきます。

  • デマに騙されにくくなるには

こういったデマに踊らされないために、そして、広め手にならないために、どうすればよいのでしょうか。

    • 「助けて下さい」は“匿名の誰か”に言わない

「誰か助けて」というツイートも、よく観ます。しかし私は「影響力の武器」という本に書かれていた、心理学の実験を思い出してしまいます。

不特定多数を相手に「誰か助けて下さい」をやると、「自分以外の誰かが助けるだろう」と「ほぼ全員が」考えるため、結果として助からない可能性が高いのです。

だから、「誰か助けてください」は多分助からない。Twitterで助けを求めるなら【拡散希望】ではなく、現在アクティブで具体的なアクションがとれ、助ける力と意欲を持ってそうな人に直接@mentionするのが確度が高いと思われます。

もし、あなたの所に【拡散希望】のヘルプが来たら、ただRTするのではなく、消防、救急、チカラを持った誰かに、直接お願いをする。その方が助けたい誰かが、助かる確度が上がります。

拡散させて、効果がありそうなのはおそらく「情報を下さい」であって、「気をつけてください」ましてや「助けて下さい」ではない。そう思います。

    • 公式ソースを観に行く

「公式」=「真実」ではありません。ありませんが、出元の分からない情報よりは信ぴょう性が高い。

阪神大震災の際ははじめの地震から三時間後に一番強い地震がきた」という情報では、ウィキペディアを観さえすれば、

ウィキペディア 兵庫南部震災
最大余震 1995年 1月17日 5:50、M5.2、震度4

と書いてあります。余震の中で最大の揺れは、ウィキペディアによると、4分後です。

一方、文部科学省地震調査研究推進本部のレポートでは

文部科学省地震調査研究推進本部のレポート
最大余震は本震発生から約2時間たった17日午前7時38分、本震の震源から北東へ約40km離れた余震域の北東端に起きました。Mは5.4で、本震のMより1.8小さくなっています。

となっています。どちらにせよ、3時間後というのはデマですし、「3時間後に来ると思ったらこない。いつ来るのか分からない」という事に、無駄に精神的なリソースを使わせずにすみます。
(戦場の兵士にとって、「●●まで待機」は耐えられても「別命あるまで待機」というのが一番厳しいそうです。)

Twitterを被災地遠くからやる暇人に言われなくても、何度も揺れているので、現地の誰もが最低限の警戒を、既にしています。

ちなみに最大余震については

最大余震は多くの場合、内陸では本震から約3日以内に発生しています。海域ではこれより長く、約10日以内

ということです。

コスモ石油の件に関しましても、コスモ石油HPで明確に否定されています。一方、東京電力の「節電のお願い」に関しては、公式HP上で明確に述べられていますので、正しい情報です。

阪神淡路大震災の様子は「平成7年 警察白書」
を見ると、

「平成7年 警察白書」
犯罪の増加・治安の悪化に備え、通常の5倍の機動力で対応し、

被災地の犯罪情勢は、オートバイ盗、乗物盗が増加した一方、侵入等が激減し、全体としては例年に比較して平穏に推移した。

とあります。(「事件が頻発はデマです」という明言に対し「一件でもあった」かどうかで反論するといった論理的齟齬も良くみられました。「一件でもある/あったかもしれない」には、誰も反論・否定できません。)

Twitter上の非常事態では「何が言ってあるか」より「誰が言っているか」に注目するのもよいでしょう。

以下は私見ですが、こういったソースが有用であるように感じ、活用しています。

東大原子力系卒業生および有志協力チームから原子力まとめ
総務省消防庁
NHK_PR
NHK_科文
ホリエモンのTwitter
原発関連では、東京大学大学院理学系研究科教授の早野氏のTwitter

    • 自分が諦めることを考える

それでも、分からないことが幾つもあります。例えば、原発原発を推進したい側と、原発を廃止させたい側が居ます。そのため、推進派はトーンダウンするし、例えば廃止派からは、この危機に乗じて誇張された危機が煽られます。

こういった時は、一つは「身近な“大丈夫”と比較する」といった事が考えられます。今回検出された放射線1025マイクロシーベルト/時(1.025ミリシーベルト)だそうですが、例えば、レントゲンやCTと比べてみます。

CT検査では、頭部CTが30000〜70000マイクロシーベルト
腹部CTが30000〜50000マイクロシーベルト

だそうです。すなわち、30〜70時間浴び続けて、CT検査1回分の放射線量である事がわかります。

11/03/14 18:10追記

こういうことを知っておくと、

福島原発>計器メーター振り切れ、放射線計測不能
http://www.asyura2.com/11/genpatu7/msg/110.html

使用した計器は「BEIGER COUNTR DZX2(上限は1000マイクロシーベルト/時)」と「VICTOREEN 209-SI(上限は10ミリレントゲン/時以上)」及び「MYRate PRD-10/1(上限は9.9マイクロシーベルト/時))の3台。上限を超えているため、正しい値を確認することはできなかった。
 
原子力問題のスペシャリストでもある広河隆一さんによると、2月末のチェルノブイリ原発取材で、事故炉から200メートル付近で計測した値は4ミリレントゲン。事故炉から­4キロ離れた、プリピャチ市で計測した値は0,4ミリレントゲンで、いずれも今回の計測が上回っており、非常に高い水準にあるという。

上記記事のように何故か、*2、政府発表の1025マイクロシーベルトを浴びれば壊れる計器ばかり持って現地入りしたジャーナリストの方々に、無駄な危機を煽られずに済みます。


一方で、もう「良く分からない」事がたくさんあります。その時は、自分ができる行動から考えます。例えば、私は今、東京に居て、新幹線は動いているようです。福島原発の事を考えると
・新幹線で逃げる
・逃げない
のどちらかの選択肢しかありません。

僕はたぶん、公式発表で「逃げろ!」と言われない限り「いま、原発がヤバいらしい」「メルトダウン秒読みらしい」と言った情報では、動かない。逃げないだろうな、と思います。

逃げない事が決まっているなら、公式発表ではない何かに一喜一憂するのは、あまり意味が無いことなのではないか。そんな風に「ある種のあきらめ」を行う事で、精神が安定するように思います。

    • 諦めない善意が、デマを広める。

こういった災害時に、私たち一般人の出来ることは、驚くほど少ないのだと思います。今、自分の面倒を自分で見られない組織が現地にヘルプに行けば「被災者が増えるだけ」です。要するに、邪魔なだけです。

同様に、「具体的な宛先」や「公式の事実」に基づかない、注意喚起や、流言蜚語も、邪魔なだけなのだと思います。

我々にできるのは、

・「顔の見えない誰か」を諦めて、「顔の見えるあなた」を支援すること
・目の前の、あるいは現地で被災している、困っている友人に具体的な支援をすること(共感する、慰める、励ます、傍にいてあげる、代わりに情報を検索する、送ってあげる、片付けを手伝ってあげる、泊めてあげる、暖かい飲み物をあげる、充電させてあげる)
・具体的なサービスを創ることのできる、誰かを応援すること。
・バックグラウンドのきちんとした組織を通じて募金すること。
・長期戦である復興の間(我々にできるのは、むしろこっち)この震災を忘れず、宮城産・福島産のものを少しでも購入する。

そしてなにより
・無駄な流言蜚語を流さない
これだけではないでしょうか。
無駄に騒ぐことで事実は「CT検診1回以下の放射線量」なのに、“その地域は放射能に汚染されている”なんて流言が広まったら、どれだけ経済の復興にダメージを与えるか。そんなところにも、想像力を持てると良いのかな、と思います。

余談ですが、この辺も根本的な誤解・誤用があるので追記。

・放射線:極めて簡単に言うと、高速度の粒子。超ちっちゃい銃弾みたいなもの。超ちっちゃいので、ダメージは少ないが、たくさん受けると人体もヤバい。実態は高速のヘリウム、高速の電子、電磁波など。
・放射能:その粒子を発射する能力。もうちょっと正確に言うと、放射能をもつ物質というのは、不安定で崩壊する。その崩壊する時に放射線を放出する。
半減期:簡単に言うと、放射能を持った物質が半分の量になるのに必要な期間。崩壊しながら放射線を撃って、放射能を失う(別の放射性物質になる場合もある。不安定なので壊れて→安定な物質になるというのが基本。)
・放射性物質:放射能をもつ物質の総称。

また、価値ある具体的なサービスとは、こういうものです。


Google Crisis Response(消息情報などがまとまっています)
SAVE Japan(TwitterのHashtagsが一覧できます)
帰宅困難者のためのGoogle Map上受け入れ先まとめ
Google Earth + 被災地の衛星写真


こういったもの、応援できる、支援できる顔の見える友人を助け合いながら、できないことを、積極的に諦めて、できる身近な人たちへの貢献を頑張って、あとは、ストレッチや、身体をゆっくり動かし、伸ばすこと。深呼吸をすること。
そういう事もいいですね。

  • このことを一言でいうと、要するにきっとこう言うことなんだろう。

http://twitter.com/#!/hkubota1016/status/46560972474810368
緊急時に、何もしないことが最良でありうることを認め、
何もできないことを受け止め、
何かした気になることを戒め、
何かしないと不安なることと戦うことの別名を、祈ると呼ぶ。
僕は宗教者ではないけど、今回ほど祈ることの意味について考えたことはない。

*1:もっとも、自分がこの非常時に、やってはならない事をしたということを「認めたくはないがゆえに開き直る」ということは、人間によくありがちな事ですので、それ自体は、仕方がありません。

*2:1レントゲンは10ミリシーベルトとして換算