みらい03―P.F.ドラッカー『すでに起こった未来』/205262

P.F.ドラッカー『すでに起こった未来』を読んだ。

『すでに起こった未来』とあるが、原題は"THE ECOLOGICAL VISION - Reflections on the American Condition"(社会生態学的な見通し―アメリカの条件を振り返る)
であり、社会生態学者ドラッカーの、アメリカ社会と文明に対する洞察を記した書である。

政府は人に何かを明示、服従を求める。企業は人に何かを供給し、支払を得る。しかし、非営利組織は人そのものを変える。非営利組織の成果は、服従でも支払でもない。たとえば、それは全治して退院する患者である。何かを学び取った学生である。人生が変わった信者である。
(p308)

重要なことは、「すでに起こった未来」を確認することである。すでに起こってしまい、もはやもとに戻ることのない変化、しかも重大な影響力をもつことになる変化でありながら、まだ一般には認識されていない変化を近くし、かつ分析することである。
(p313)

社会生態学は、分析することではなく、見る事に基礎をおく。知覚する事に基礎をおく。
(p322)

ドラッカーは、

  1. 観察すること
  2. 問いを立てること

によって、「既に起こった未来」を視ようとしているかに見える。
ではその観察は如何様に行い、その問いはいかにして立てるのか。
以下、ドラッカーの洞察を観察して咀嚼した。

  • 独自のものを見る。常識からの「ハズレ」を見る
    • ドラッカーのアメリカへの視線
      • 先進国のなかでなぜアメリカだけが、最も世俗的な政治とともに、最も宗教的な社会をもっているのか。
      • アメリカに特有の理念と制度は、政治の領域にある
      • 社会学者には、アメリカを特徴づけるものが競争であると信じ込ませようとする者がいる。しかし、それは間違いである。アメリカを特徴づけるものは、民間の自発的な集団を通じた競争と協力の共生である。
    • ドラッカーの、経済への視線
      • 経済活動・経済的合理性はそれ自身が目的ではない。
      • 経済的条件は単に制約条件にすぎない。 人間的目的や社会的目的の手段にすぎない。
    • ドラッカーの、企業への視線
      • 利益に関する最も基本的な事実は「そのようなものは存在しない」。存在するのは、コストだけなのである。
      • すなわち、資金コスト・不確実性に対処する保険コスト・雇用や年金のためのコストである。(例外は純粋独占による超過利益)
      • 経済活動とは、現在の資源を未来にゆだねることである。
      • 利益とは資本主義に特有のものではない。共産主義経済ではイデオロギー的理由から市場経済より遥かに高い利益率の利益を売上高税と呼んでいるだけである。
    • ドラッカーの、技術への視線
      • 人類の発展をもたらしたのは、科学の進歩ではなく、技術の概念の進歩。
      • 技術が科学の概念を変えた。 科学は自然哲学から社会機関になった。


このように、前提を疑い、常識を疑い、常識から外れた現実から本質を抽出している。特に、「利益など存在しない」と、普通の人は言えない。


  • 基礎を精神、人間、組織、社会、文明に置いている
    • 技術について
      • 技術を単なる技術上の現象でなく、人間的・社会的現象として見、社会を仕事と仕事の絆を中心に形成されるものとして見ようとする。
      • 唯一可能な説明は、(18世紀以前)科学と技術が関係あるものと思われていなかったということである。
      • 科学は最も普遍的なものを対象とし、技術は最も具体的なものを対象とした。科学と技術の両者に類似があったとしても、それはまったくの偶然だった。
      • 技術は、既存の知識を集めて体系化し、それらの知識を組織的に適用し、それを公にすることによって生まれた。
    • 情報について
      • コンピュータについて、それが技術的な能力に優れているという理由ではなく、まさに我々に情報を使う事を強いるという理由で、社会に対してきわめて大きな影響を及ぼすと考えた。
      • コミュニケーションと情報はまったく別のものである。しかし、情報が成立するためにはコミュニケーションが必要である。

このように、人間や組織、社会や文明といった視線から、これまで言われてきた事を問い直し、変化の本質を捕まえようとしているように思われる。

◆編集後記
 「社会に対するインパクト」に対する指標を産み出したい。
「会社に対するインパクト」なら、例えば株価がその指標の1になるかもしれない。その数値の振れが短期・長期かということも指標になるかもしれない。

 では、会社や組織の社会に対するインパクトはどう指標化しうるのか。どうやって「幸せになった人の数」×「その幸福の質」を追求していくのか。

 ビジネスは顧客の問題を解決する。すなわち、ビジネスは基本的には社会貢献、あるいは顧客貢献である。しかし、売上高も利益も、貢献以外のパラメーター変化によく反応する。だから、金銭で貢献度を測る事は難しい。

 そして何より、貢献のターゲットにならなかった人、今回の「社会貢献」の「社会」に含まれなかった人、貢献の宛先とされなかった人をその指標に取り込むのか。考えていきたい。

 「社会貢献」を目の前の「あなた」が幸せになる以上のスケール拡大には、そういった指標が必要不可欠であるように感じる。