大山泰弘氏 日本理化学工業 株式会社 会長

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ダストレスチョーク
などで有名な、日本理化学工業の大山会長のお話を伺いました!

チョークをダストレスに
炭酸カルシウム 大正12年

知的障害者雇用の経緯
川崎と北海道。二つの工場で、従業員の7割が知的障害者
なぜ知的障害者を大勢雇用して、工場をやっているのか?

◆受け入れ
青鳥学園という養護学校から訪問があり、
15歳の知的障害者(精神薄弱児と呼ばれていた)を受け入れて欲しいという話があった。
先生のお話を聞いていて、「精神的におかしい人」なんてとんでもない、と
門前払いをしてしまった。
先生は2度、3度と来られ、
「来年の三月、就職できなければ、親と離れ離れになって、
働くという事を知らず、一生施設に送ってしまう事になるので、
せめて、働く経験だけでもさせてください」
と言われ、心が動きました。

そうして、では、2週間だけですよ、と期限を切って、
1人じゃかわいそうだから、2人、受け入れました。


34年の秋のことだったと思います。
その受け入れた2週間の後、その2人をうちに就職させました。
その理由は、2週間を通して、二人がとても、一生懸命だったから。
毎日二人とも、昼食のベルが鳴っても、
従業員が声をかけるまで、一生懸命仕事をしていた。

工場には中年の女性が多かったので、
「私たちの娘みたいなものじゃないか。
私たちが面倒をみるから、専務さん、就職させてやってくれませんかね」
と言われ、2人を就職させた。

次の年も、学校の先生が来られ、障害者を受け入れ、
4人、5人と増えていった。

◆転機
そのころ、ある会でお寺のご住職が隣に座られた。
「ご住職、うちには何人か、文字も数も読めない子たちが仕事を頑張ってくれている。
僕の考えからすると、仕事ができないなら、施設にいた方が幸せのように思うのに、
なぜこの子たちが満員電車に揺られながら、毎日遅れもせずに来られるのでしょうか
さっぱり、わからないのです」
と相談した。

住職は
「ものやお金があれば幸せだと思いますか」
と逆に質問をされた。
「人間の究極の幸せは4つです
愛されること
ほめられること
役に立つこと
必要とされること

愛されるのはともかくも、施設で褒められたり、役に立ったりしようとされますか?
それが企業であってこそ、叶えられることですよ。

施設が人を幸せにするのではなく、企業が人間を幸せにするんですよ。」

そういう
「企業が人間を幸せにするんですよ」
というご住職の言葉を聞き“企業を頑張ろうか”と思った。


◆国の制度と共に
昭和48年、国が重度障害者多数雇用モデル工場の制度をはじめた
一つの企業で50%の障害者を雇用し、その半分が重度の工場を作れば
国が融資をしてくれ、20年で償還してもらえる制度を作った。

当時、身体障害者の雇用は多くあったが、知的障害者の雇用はあまりなかった。
その制度ができる前にも、
知的障害者を雇用しているということで、
労働省から大臣が視察に来られたという繋がりもあり、
知的障害者のモデル工場にならないか、といわれた。

当時、ある事のヒントもあり、そのモデル制度に乗った
ある事のヒントとは、こういうことです。


◆相手の立場に立つ
これまでは、普通の人ができることを知的障害者に教え込んで、
できるまでやらせる、という事をやっていた。

そうではなく、「彼らが実際にできることはどういう事かな?」と考えた。
彼らが家を出て、会社に来る所を思い浮かべると、
通勤中、電車に乗る。
ということは、こういう形式のところで定期を使って乗り換える、ということはできるはずだ。
また、会社の最寄駅の改札を出てから会社に来るまで、四つ角をいくつもクリアする。
そうすると、それが付き添いもなくできるということは、
交通信号の識別ができる。赤で止まる。青で進むの区別がつく。
つまり、いくら字が読めない子たちでも、
事故も起こさず会社に来れるという事は、赤青の識別はできるはずだ。
彼らのわかる理解力の中で仕事の段取りをなんとかできないだろうか、
というのがヒントでした。


普通のチョークでしたら石膏と水を流し込めば固まりますが、
炭酸カルシウムでは押し出し成形をするのでそれだけでは固まらない。
固めるための材料の名前を覚えたり、袋から読んで何の材料かを読まないといけない
秤なんていうものも、何グラムというメモリを読まなくてはいけない。

そこで、交通信号をヒントに、Aという材料を赤に塗りました。
必要な量も、秤のメモリではなく、必要量の錘を赤く塗っておきました。
天秤が上にも下にもいかなければ、下ろす。

つまり、
赤い材料には赤い錘を、
青い材料には青い錘を、というようにすれば。
彼らの理解力の中でちゃんとできるような段取りをしてあげれば、
彼らはちゃんとやってくれる。

他にも、
時間で稼働する練りの作業は、砂時計でやります。
時計は読めなくても、砂が全部落ちたら止める、ということはできる。
こういった事をすれば、時計は読めなくても、時間通りの作業ができる。

我々の商品であるチョークはJIS規格の指定商品だから、
ばらつきが大きいといけません。
しかし、そういった検品作業も知的障害者がやっています。

実に、製造ラインは、1人の健常者が、12〜13人の知的障害者と共に仕事をしている状況です。

彼らに合わせた作業の段取りを作り、
彼らに横で親切にわかりやすく教える班長を置き、全体を構成する。


中間の製品検査も彼らがおこなう。
例えば、チョークの太さ±何ミリという検査は、普通ならノギスで直径を測る。
しかし、ノギスは複雑な物差しみたいなものだから、使えない。
そこで、チョークが±何ミリをの範囲でいくつでないといけないか、ではなく、
太い検査の穴、細い検査の穴を用意して、その両方をクリアすれば、チェックを行うことができる。


知的障害者はともすると、一つの仕事も落ち着いてできない、と言われるが
「こうしなさい」と言われても、
自分がその通りにできているかできていないか、不安で、
不安だから、集中してできない。

けれど、自分の理解力の中の作業であれば、必要以上の神経を使わず安心してできる。
だから彼らは、真剣に飽きずに、安心して取り組む。


よく見学に来られた方が「あんな単純な仕事を良く飽きずにできますね」と言うが、
逆なのだと考えています。

彼らの理解力の範囲で段取りを決めてあげれば、
彼らはむしろその中で、集中して生産的に働いてくれる。

おかげ様で、チョークのシェアでは北海道から沖縄まで、20%を維持しています。


◆「チョークみたいに単純だから知的障害者」ではない!
昭和50年モデル工場を作ったとき、
「チョークだから知的障害者は大勢来る」と周りは言う。
つまり、やっぱり知的障害者のレベルはそのくらい(簡単なチョークづくり作業ができるくらい)だ、と思われてしまう。

実は、「チョークだから」「チョークだけ」ではありません。
昭和50年、パイオニアさんの松本社長とともに、
当時、世界の最先端を行っていたパイオニアさんの
カセットの成形まで組み立てる事ができた。
知的障害者の工場で、カセットを1日1万個作った。
「チョークだからできる」のではない。


彼らは言語は分からないが、識別はできる。
成形機から出てきたものの仕訳ができる。
何もないものが良品。
何かあるものが悪品。
悪品と仕訳したものを職員がさらに見て、基準内のものは良品へ追加。
というような事をやった。


また、カセットが5つの部品を手元に用意して、それをベルトコンベアの流れてきたケースの上におくのが普通の工場の作業で、健常者は1500ほどを一日にできたようですが。
うちの(知的障害者の)従業員はさすがに、この作業は200〜300個が限界でした

けれど、それを、5つの部品を1人でやっていたのを、
1つの部品を1人にして、5人で完成するようにすれば、
一日5人で5000個できた。

全てではないが、大分そういった恩恵を受けながら(パイオニアとの協働が)できた。

障害者雇用、3重の社会貢献
昭和35年からすれば50年近く経っているけれども
私は本当にラッキーなことに
障害者と関わっていたことで、
企業をやるとともに、福祉の先生や学校の先生と関係が持て、
企業に居ながら福祉の世界の情報がキャッチできるという立場に居られた。

そんな立場から見て思うのは、
重度の障害者を雇用するのは一石三鳥の社会貢献だなと思い、気が付き、教えられた。
・障害者も会社で働ければ、まず間違いなく幸せになれる。
・本来なら施設に入る人を企業で活用できれば、少子高齢化の中、間違いなく労働力を確保できる。
・20〜定年60歳。まるまる40年。ずっと施設にいると、40年で2億。一年で500万円掛かる。それが、50年やっていると。うちにはそういう人が3人居るが、それだけでも3人×2億の社会福祉費の節約ができる。

今まであまり気付かなかったけれど、小さい会社でも、それだけの大きな社会貢献ができる。

確かにこれまでは障害者を雇用しているということで、色々と賞なども頂いたが、
この間、経済の象徴的な渋沢栄一賞を頂いた。
ちっぽけな中小企業の社長であっても、経済界の一角を占めるような賞を頂くような貢献ができた。
これは、今後の中小企業にとっても、大きな励みになる。
そういう意味でも、今後も障害者雇用について、頑張っていきたい。
ここまで来れたのも、一生懸命な障害者のお陰であると思っています。
それだけに、この幸せな人生を歩ませて頂いたことについて、
彼らに感謝しないといけない。

段取りさえしっかりすれば、きちんと働けるということを伝えていきたいと思います。
どうも、ありがとうございました。