東大法学部卒 殺人予告事件によせて/171951

一月ほど前、はてな民から逮捕者が出たことは記憶に新しい。

東大法学部卒の、はてなダイアラーが、文科省の官僚や、東大法学部の教授に向けて、日時を特定した殺人予告を行った。

曰く、現在の教育は終わっている。文科省役人や東大法学部が、愚民を騙すための教育である。このままでは日本はダメになる。私が天誅を下す。

こういった内容だった。


一時狂乱的に盛り上がったらしいその場では、
頭の質の悪いやつが「素晴らしいです」などと書いてポイントを贈ったり、
東大卒もバカになったんだな、なんていうコメントがついたりした。


そのBlog http://d.hatena.ne.jp/realiste0/が、いつの間にかプライベートモードになっている。取調べが終わったのであろうか。


結論から言う。
彼は、社会の脅威には成りえない。
彼にはきっと、誰も殺せない。



顛末が、
http://anond.hatelabo.jp/20081129200805
このあたりに少しまとまっている。


ああ、やっぱり、と思った。

彼は、一昔前、fer-mat(フェルマー)というIDではてなダイアリーを書いていた。
ちょうど僕の浪人が決まった直後あたりで、そのダイアリーの存在を知ったのだったか。


fer-matの彼は、当時から、
フェルマー、というIDを使うだけあって、数学に心を奪われていたようであった。
法律はくだらない。数学は素晴らしい。
そんな話が良く、書かれていたように思う。

彼なりの洞察、数学への憧憬、法学への反発、勉強の方法がいささか過激とも取れる文体と小難しく感じさせる文体と共に描かれており、時折根本的なミスや曲解も見られるものの、

それは単に間違っている、頭が悪い、というよりも
「極論を書かなければ面白くないし、誰も見てくれません。本当にそう考えているわけでは無いことも書いてます」

などというコメントにも読み取れるように、ある程度考えづくの所があったように思う。


彼は、
教科書に書いてあることと現実が違う。と憤る。
教科書に書いてあることは、子供たちを騙すためのウソである、と憤る。
飼いならすための謀略である、と憤る。

だが、それはそうではないか。
教科書で、「ほんとうのこと」を問うわけにはいかないではないか。

http://www.amazon.co.jp/dp/4782802099
あのソクラテスですら、その論理の中には、社会的要請が密輸入されたという。

因果応報は根拠の無い嘘だが、因果応報とみんなが信じれば、恐らく誰も信じ無いより少し住みよい世界になるではないか。

悪人が、卑怯な手を使って豪奢に遊んでいると、彼は本当には不幸なのだ、と思いたくなるが、本当にそうかどうかはわからないではないか。
さりとて教科書には「悪いことをしても幸福な人生を送れる」などと書くわけにはいかないではないか。

これらの事は、逆説的に「大人の社会の真実」を炙り出している。
すなわち、

「本当のことは、言ってはいけない」。



「いけない」とはどういう事かを問うのは教科書や学校の役割ではなく、
「いけない事があってもそれをしてもいいのではないか」と教えるのは教科書や学校の役割ではなく、
個々人が、本当にその問いが切実なものと成った時に問えばよいではないか。





さて、東大には、進学振り分けという制度、転学部という制度がある。

進学振り分けは、2年の前半までの成績を元に進学する学部を決定する制度で、文科一類(法学部に進学を目されている学科)に入っても、法学部に行かず、点数さえあればほとんどどこの学部にも行ける制度である。僕の友人にも、理科一類から経済学部に移った者がある。

転学部は、前述の点数があれば、学部配属後も(留年はするが)、学部を変わる事ができる制度である。僕の友人にも、工学部から教育学部に移った者がある。

なぜ、fer-matの、realisteの彼は、転学部しなかったのだろうか。
法学が嫌なら、法律に向いていないなら、
数学が好きなら、転学部すれば良いでは無いか。

司法試験を受けて落ちたというが、教育を変えたいなら、教育学部やその文科省を目指すという手もあるではないか。
あの頃から、4年である。

4年間、どうしてなんの行動も起こさなかったのだろうか。


彼は、何も行動を起こしていない。
行動しない者に成長はない。

ちょうど僕が、realiste0の彼がfer-matの彼である事を「ああ、やっぱり」と思ったのも、文体と思想がそのまま「繋がった」からだ。
他人を見下す所作。
「こども用」と言いつつ前編平仮名で書くだけという教育的配慮の無さ。
いかなる成長の痕跡も、見られない。

確かに今回、彼は逮捕された。
逮捕されたが、彼が何か行動を起こしたというわけではない。
行動したのは、彼ではなく、実際には警察の方である。
彼は単に、部屋から一歩も出ず、4年前から僕が知るように、ただネットへの書き込みをしていたに過ぎない。


奇しくも当の殺人予告をされた法学部の教授は、
「俺今日、殺人予告されてんだよねw」なんて言っていたらしい。
なんとも現実感を遊離した、話だったのだろう。


だから、彼には革命は起こせ無い。
だから、彼は、脅威では無い。
だから、彼は、恐るるにたらない。

そんな事を、思う冬。