バックミンスター・フラーの世界/132171

という本を読んだ。

読み進めている最中の「COSMOGRAPHY コズモグラフィー」がなんとも難しすぎて、その前にフラーの業績全体を俯瞰したいなと思って読んだ。

フラーの生涯がその思想と作品を軸に、時系列に沿ってまとめられているのだが、

 哲学者・宗教家としてのフラーは「ほんとうの」神を信じ、宇宙が人間を産みだしたのは、何か人間が成すべき役割が与えられているからであると考えた。曰く、「宇宙が人間を産みだすのにかかった時間とエネルギーに見合う価値を、人間は提供しているだろうか?」

 フラーは、「モルモットB」として、自分の生を、その「役割」を調べる為の実験に使った。人間を他の生物と弁別するものは「マインド」であると考えた。マインドは動物的な「反応」ではなく、包括的な思考をもたらす。

 そのフラーの包括的な「マインド」から出てきた判断は、「確かな情報と効率的なデザインが、地球の資源全体をつまびらかにし、それを公平に分配し、すべての人間によりよい暮らしをもたらすことができる」というものであった。


 環境デザイナー(建築の事を彼は環境デザインと呼んだ)としての彼は、「自然のデザインは最も経済的である」という思想を軸として、自然の法則の「発見」を目指した。

 フラーは宇宙全体を考えた。宇宙の中に太陽と地球や他の惑星が浮かんでいる。それらは互いに見えない糸でバランス良く引っ張り合っている。

 物質を形作る分子も同じく、原子どうしが見えない糸でバランス良く引っ張り合っている。

 その事からフラーは「張力」が自然の最も経済的なシステムではないのか?と洞察した。果たして、同じ太さの同じ金属の棒は、圧縮力(押さえつける。cf.椅子のアシ)に対する強さよりも、張力(ひっぱる力。cf.釣りざお)に対抗する強さの方が遙かにち強い事が実験的に確かめられる。

 すなわち、「張力」という概念を建築に取り込めば飛躍的に使う資源の量を減らせ、軽量化が実現でき、従ってコストの削減になる。

 人工物は人為であっても、人体は自然の選択が作ったものである。我々の体にある筋肉も「張力」を優先して使っている。筋肉が「引っ張る」事で我々は立ち、歩き、会話する事ができるのだ。

 フラーの「環境デザイン」の一つの成果は、この「張力」という概念に注目した事だろう。

 もう一つのフラーの業績は「かたち」だ。彼は、正四面体を最も基本的なシステムだと考えた。曰く「私は、物事の根本は正四面体にあることを発見した」

 何故正四面体が基本的なシステムと言えるのか?それは、正四面体の構成要素である三角形の「特殊性」に起因する。ある一つの三角形は、三角形の3つの辺がある長さであると決定されれば一つに決まる。

 しかし、四角形以上は、各辺の長さが同じでも、一意には定まらない。例えば、すべての辺の長さが同じ四角形は、ひし形にもなれれば、正方形にもなれる。

 正方形の一辺と一辺の「ジョイント」が自由に動く状態で、正方形を正方形たらしめるには、「補強」の部材を入れなければいけない。

 この事が立体化:正四面体と立方体となったときにも言える。立方体で何かを作れば、ななめに部材を入れて補強しなければならない。同じ体積の正四面体と立方体であれば、立方体は正四面体の3倍も非効率なのだ。(プラスティックのストローを切って、糸を通し実験してみるといい。)


 そういった、かたちと張力に関する洞察から、フラーは数々の発明を世に送り出した。バックミンスター・フラーレン(C60)と名付けられたサッカーボール型の炭素分子は、彼の作ったフラーレンと同形のドーム:モントリオールドームを、C60の発見者が見ていたが為に名付けられた。

そういった、フラーの生涯を俯瞰できる、刺激に満ちた本であった。