今日、本郷で工学部ガイダンスがある。今日ガイダンスで明後日が授業開始。…という事は、そろそろ夏の総括をしないといけない時期、というわけだ。

 そういうわけで、夏に読んだ本の総括をしようと思うのだけれど、無意味に読んだ本を全て羅列・レビューしても仕方が無いので面白いと思った本だけ紹介することにする。

・知識の構造化
  うちの大学総長、小宮山さんが書いている本。知識が高度・複雑化した(人間の情報処理能力と、処理すべき情報の膨大さの乖離した)現代において、学問と学問、知識と知識を取り扱う新たな学問としての「知識の構造化」を提唱する。
  キレイに纏まりすぎている印象と、企業や現実の紹介に始終している感があるが、この「知識の構造化」という分野は、今後いろいろな部分で役立つ事だろう。

・物理数学の直感的方法
  長沼伸一郎というキチガイみたいに頭のいい人が書いた本。この本はとても面白くて分かりやすい。物理数学の本。第11章「三体問題と複雑系の直感的方法」は文系理系問わず必読。理系の人には第7章のフーリエ変換フーリエ級数の解説が非常に分かりやすくてお薦め。

・ステルス・デザインの方法
  上の物理数学の直感的方法を書いた長沼伸一郎氏が書いた本。都市の閉塞感というものが、現代建築によって増加した直角部分の「全反射」に起因するのではないか、と考え、現代の全反射を防ぐ軍事技術“ステルス”という見地から、「体感広さ」を数値化する試みが成されている。お薦め。

ミーム・マシーンとしての私<上><下>
  なんでこの本を6年前(6年前に発売されたのだ!)に手に取らなかったのだろう、と後悔する事ヒトシオの本。「ミーム」という自己複製子についての攻撃的なまでの論理を展開する。
  簡単に言うと、こうだ。まずミームの定義は、「非遺伝的な手段、模倣によって伝え渡されるもの」である。「もの」とは、情報や行動、逸話など、凡そ模倣によって伝え渡される何モノかである。
  まず、人と他の生物を分けるものが、「模倣」であると筆者は論じる。オペラント条件付けでもなく、ただ模倣することによって、人は学習する。
  なぜ人に模倣が生じたのか? 遺伝子は脳を作ったが、一度“模倣”が生じれば(従って模倣を生じさせるための遺伝子(の複合)が存在すれば)、その事は生存上の有利さを齎す。例えば、より効率の良い石器を模倣によって作れるようになるであるとか、衣類を模倣してより消費するエネルギーを節約できるであるとか。
  すなわち、それまでは身体能力や、その人固有の(石器など)発明能力が、子孫を、従って遺伝子を残す為に有効であったが、模倣する能力は更に有効で、かつ、「模倣」≒「コピー」する能力は他の能力と一線を劃すわけである。すなわち、「最良の模倣者が最良の配偶者である」状態が進行する。
  この模倣の傾向が生ずる確率はそんなに高くない。だがしかし、一度だけ起こればよかった。一度模倣への傾向が広まれば、それはどんどんと広まるからだ。
  ここからが、ミームの登場である。人は模倣する能力を得た。どんなミームを模倣するのが遺伝子にとって最良か? 「生存」に関わるミームである。だから我々は、冷たい飲み物や甘い食べ物を好み、セックスを楽しむ。
  だがしかし、遺伝子は二人の人間が一人の子供を生むときに一度伝達されるだけなのに対し、ミームは人が模倣する度に変容する。従って、ミームは遺伝子よりも早く変わる。
  遺伝子はこの変化についていけない。遺伝子の成しうる最善の手は「もっとも目につくミームをコピーせよ」「もっとも人気のあるミームをコピーせよ」あるいは「食べ物、セックス、勝利に関連したミームをコピーせよ」といった発見的学習法を進化させる事だ。
  それゆえ、目につくような、目立つような、人気のあるようなミームはコピーされ、流行が生まれる。そうして、人間は遺伝子とミーム(摸倣子)の両方によって駆動されるようになったのだ、と筆者は言う。
  かくして、人は遺伝子だけの機械ではなく、ミームによっても駆動される存在となった。遺伝子はミームの棲家である脳を作ったが、新しい自己複製子ミームは最早遺伝子に囚われない。
  このミームという分野、非常に面白そうだ。是非読んでみるといいと思います。